Moleculeプロフィール: Oli Grant

シニアサウンドデザイナーのOli Grantは、ドリームズ・ユニバースの鍵盤を駆使して音楽やオーディオの作成を行っています。DreamsCom 2022オールハロウズ・ドリームズといったゲーム内ライブイベントにも携わる彼は、多種多様なサウンドトラック、効果音、オーディオで心地よいシンフォニーを届けてくれます。ここでは地元でのDJ活動、不気味なサウンドトラック、自分の耳を信じることについてOliに話を聞いていきます。

よろしく、Oli! Media Moleculeではどんな仕事をしていますか?

Oli Grantの写真。

Oli Grantの写真。

シニアサウンドデザイナーとしてライブチームを中心に各種プロジェクトの音楽に関するディレクションを行っています。サウンドデザインのみを担当することもあれば、音楽のみを担当することもあります。Dreams Universe™内の作業だけではありませんが、それが大部分です。Dreams Universe™の外では効果音ライブラリ用のツールやインストルメントの作成を行ったり、トレーラー制作時にはポストプロダクションを担当して声の調整や最終ミックスを手掛けることもあります。特定の分野に喜びを覚える人もいますが、私の場合はオーディオの全てに関わるのが好きですね。

日々の仕事はどのような感じですか? 音楽の制作を行っているのでしょうか? オーディオや背景音の制作も行いますか?

Oliが陽気なBGMを作成したDreamsCom 2022の画像。

Oliが陽気なBGMを作成したDreamsCom 2022の画像。

プロジェクトや関われる人数によりますね。分担して誰かの音楽的ビジョンや誰かのサウンドデザインビジョンをそれぞれ追求できるようにしたほうがいいこともありますから。実際、今回のオールハロウズ・ドリームズはそのような体制で進めました。今回のイベントでは音楽面を基本的に担当していましたが、コニーを追いかけるシーンやラマのカウンシルのシーンについては全面的に担当しました。音楽の作業が開始されたのは各ステージをまとめていく3~4週間前だったので、方向性については並行して考えることができました。それぞれの面にそれぞれの良さがあると思います。

サウンドデザインはいろいろな意味でとても楽しいものなんです。頭を論理モードに切り替えて、左脳をフル活用し、ゲームやシステムがきちんと引き立つように意識して制作に取り組んでいます。論理的な思考と丁寧な作業が優れたサウンドデザインを生み出すと私は信じていますから。シンプルな音で作りこんだ音楽はゲームを引き立たせる上に、聞いていて気持ちいいですよね。ゲーム内の音楽については大部分をDreams Universe™内で作っています。プラスアルファの魅力を加えるためにDreams Universe™外でインストルメントを作成してインポートする場合もありますが、大抵はツールの範囲内で作成しています。

『失われた夢の国』のオーディオはどのようにデザインしましたか? 伝統的なホラー効果音からラマの声まで、多種多様なものが使われていますが。

『失われた夢の国』のフワフワな管理人、ラマ・カウンシルの画像。

『失われた夢の国』のフワフワな管理人、ラマ・カウンシルの画像。

私たちは不気味なものというより、次元をまたぐホラー体験を作りたいと考え制作を開始しました。伝統的なハロウィン要素も含んではいますが、複数のジャンルをミックスすることでまったく別のものと化し、完全に私たちの得意分野になりました。コンビネーションや様々なスタイルが組み合わさって、ユニークなものが出来上がる瞬間が大好きです。音楽を作り始めた時は伝統的なハロウィン音楽に沿ったものを作っていましたが、インスピレーションになったのは『アドベンチャー・タイム』や『ミッドナイト・ゴスペル』といった番組です。奇妙なカートゥーンの王様といった存在で、私の大好きな番組です。幅広い年齢層の視聴者の注目を集め、特に大人たちにウケるようなネタもたくさんありました。私たちはインスピレーションの源になる奇妙なものを集めたプレイリストを作って活用していました。オーケストラと電子音楽のハイブリットや、興味深い作曲家の作品、古き良きヒップホップなど、幅広い音楽を集めたものです。80年代のシンセウェーブのようなものも入っていましたね。

『オールハロウズ:失われた夢の国』のトレーラー。

サウンドの方向性に関しては、80年代のシンセサイザーのような雰囲気を出したいと考えました。レトロで温かみのあるヴィンテージなサンプリング、少し歪ませたデジタルな質感、いい意味での質の低さのある雰囲気です。これが今回のイベントにぴったりだと思いました。少し前にポッドキャストを聴いていたら、音を割れさせたようなサンプリングがされた、昔に開発された古いキーボードであるメロトロンのような音楽が流れていました。30秒ほどのループになっているその曲を聴いてハロウィンイベントの全体像が一気に見えてきました。

Media Moleculeでこれまで携わった作品の中でお気に入りのものはありますか?

DreamsComは小規模なチームだったこともあり、とても楽しかったですね。オーディオやビジュアルのディレクションに夢中になって、チームで物理的に集まっているような感覚になれる空間が作れました。ヒップホップ、レゲトン、エレクトロニカ、ガラージュなど、自分が好きなジャンルの音楽をたくさん作ることができてとても楽しかったです。VRコンテンツも、真っ白なキャンバスのようなプロジェクトだったのでとても楽しかったですね。あえてシンプルにしつつも、そのシンプルなキューブ構造と白い背景にどれだけ大胆なサウンドデザインを加えられるかを試したいと思いました。ああいった環境に命を吹き込む作業は非常にやりがいがありますね。ですが私の仕事で一番大きな満足感が得られるのは、ライブイベントの作業だと思います。コミュニティの反応を見るのが大好きですから。

この業界にはどんな経緯で入りましたか?

画像は『失われた夢の国』に登場する呪われたコーンのスキンファント。悪夢を見ること間違いなし。

画像は『失われた夢の国』に登場する呪われたコーンのスキンファント。悪夢を見ること間違いなし。

私の経歴はちょっと変わっていて、子供の頃から音楽にはどっぷり浸かってはいたんですが、楽器や音楽を習ったことはありませんでした。母がダンスグループをやっていて、簡単なソフトでダンス用の曲を作っていたのを見ていたくらいです。12歳ぐらいの頃、ひどく体調を崩したことがあったんですが、その時にラップトップに入っていたソフトとWindowsのサウンドを使ってあれこれいじってやろうと思って、気が付いたらトラックを何曲も作っていました。それがあまりに楽しかったので、今度はPlayStation®2の『MTV Music Generator 2』を買ってきて、毎晩何時間も遊ぶようになりました。ただ音楽を作ることが好きで、どんどん沼に嵌っていくみたいにのめりこんでいきました。「音楽はもうやりきった」と思ったことはなかったです。完璧に極めることなんてできないですからね。やりこめばやりこむほど新しくやりたいことが見つかっていって、あれを試そう、これができるようになりたい、という発見が続いていく。音楽のそういうところが私は好きですね。

打ち込みの楽曲を作って発表するようになり、15歳くらいの時から少しずつ注目を集めるようになりました。地元でDJをやっていた頃に初めてレーベル契約をしましたが、嬉しさと同時に、自分には基礎が欠けていることに気づきました。当時は自分の耳と音をミックスする能力しか鍛えていなかったので、演奏と作曲の能力も伸ばす必要があると感じました。それで好きなアーティストを真似ようとひたすら試行錯誤を繰り返していきました。その後、専門学校の音楽技術コースに入ることができましたが、そのためにやったのは、学部長に会って「どうも。私はこんな感じのものを作ってまして、叩き上げなんですけど、勉強させてもらえませんか?」と言ったことぐらいです。

それから、ボーンマスの大学に通いました。在学中、将来は音楽関係の仕事をしたいと思っていましたが、ただ待っているだけでは仕事はもらえません。なので、私は友人たちと一緒にビジネスを始めて、ポストプロダクション、サウンド、音楽など、とにかくなんでも引き受けながら、ポートフォリオになる実績作りをしつつ、生計を立てていくことにしました。最初は学生映画や小規模なゲーム制作に携わり、そこから口コミが広がってBTの広告(訳注:British Telecom社。イギリス大手の通信事業者で、歴史のあるCMシリーズが有名)の依頼が舞い込みました。あの時の興奮はものすごかったですね。

DreamsCom 2022の画像。ロゴの上にアバターが立っている。

DreamsCom 2022の画像。ロゴの上にアバターが立っている。

奇妙なこともたくさんあって、例えば、誰かが卵をかき混ぜているシーンの仕事をした時は、実際に卵を買ってきて、かき混ぜる音をいろんな角度から収録しました。延々と卵をかき混ぜ続けていましたね。Sony Xperiaの広告が評判になった時は、自分たちがかなり幅広いプロジェクトに関われるようになったんだなと実感しました。それで、フリーランスで仕事をしながらインハウスのサウンドエンジニアに応募をしようと思っていた時、Media Moleculeのボイスオーバーデザイナーの募集を見つけました。初めは短期の契約でしたが、働きながらスタジオのワークフローを学んでいるうちに、Dreams Universe™のツールにすっかり夢中になっていました。そのままサウンドデザイナーとして雇ってもらえることになり、シニアサウンドデザイナーにまでしてもらえました。

Dreams Universe™のオーディオツールはプロ用のオーディオソフトウェアと比べてどうですか?

制約はありますが、それに勝る利点があると感じています。難点があるのは事実なので、まずはネガティブな面に触れておきましょう。Dreams Universe™ではラジオで流れる曲ような完成度にするための最終的なマスタリングと微調整を行うのが難しいです。それは最後の仕上げの部分で必要になるダイナミクスの処理やプラスアルファのツールがないからです。とはいえ、これまでの音楽編集ソフトと比べると、Dreams Universe™は作業がスムーズすぎて笑えてきます。あらゆる機能に数クリックでアクセスできますからね。ほかのソフトみたいに適切なドライバーを判断する必要もなく音楽をタイムラインに配置し、あらゆるレイヤーに一瞬でアクセスできます。従来のソフトウェアでは、そうした判断を行っている間にインスピレーションを逃してしまうかもしれません。アイデアを形にするまでの流れが非常にスムーズで、他のツールではそれが通常のワークフローになっていないのが驚きです。

オーディオデザインの仕事がしたい人にアドバイスはありますか?

自分の耳を信じるのが大事だと思います。当たり前だと思われるかもしれませんが、自分にとって良いものに聞こえたら、それは良いものです。大切なことは、さまざまな刺激や感性に訴えるものに触れて、感覚的によいと思える領域を広げていくことです。オーディオデザイナーとして学んだ一番大事なことは、自分の判断を信じること。決して誰かと比べず、誰かの評価を恐れて手を止めたりしないこと。自分以外の誰かの意見も大切ですが、最後は自分の心の声に従うことです。どんなクリエイターにも同じことが言えると思いますが、オーディオデザインの仕事をするならいろいろな経歴があっていいと思います。とはいえ、自分が特に好きなものにはこだわりを持っているといいですね。いろんな役割が求められるので、一番楽しめるものを見つけてほしいです。ダイアローグに関わるパートでは繊細な音を扱う耳の良さが大切になってきますし、それ以外の、例えばサウンドデザインのような、真っ白なキャンバスに思うままに、まだ誰も聴いたことのないようなサウンドアセットを作るような仕事が楽しいと感じることもあるかもしれません。

Media Moleculeのスタッフは、みんなデスクに面白いものを置いていますね。今、デスクには何を置いていますか?

仕事中に手が空くときってありますよね。制作中のデータを保存しているときとか、何かをアップロードしている間とか。私は何とかしてすぐに暇を紛らわそうとするんですが、そういうときのために、デスクにJX-03というシンセサイザーを置いています。小さくて場所を取らないし、さくっと弾けてとっても楽しいんですが、そうやってできたかなりの数のサウンドが『失われた夢の国』で使われていたりします。ドラムパッドもあって、退屈したときによく叩いて楽しんでいます。どちらもいつでも持ちだせるようにセットアップしてあります。仕事のやりとりで話したりタイピングしたりしているあいだ、デスクの左側でドラムパターンを叩きつつ、右側でカリフラワーサンドを食べる、みたいな感じです。本当に取るに足らないことですけど。

最後に、Dreams Universe™ゲームのお気に入りやオススメしたいものがあれば教えてください。

KarstenStaackがLady_SnipeShotのボーカルを用いて作ったミュージックビデオ『PHOENIX』の画像。パステル調の青い髪の女性の顔。眼鏡をかけてカメラを真っすぐ見ている。

KarstenStaackがLady_SnipeShotのボーカルを用いて作ったミュージックビデオ『PHOENIX』の画像。パステル調の青い髪の女性の顔。眼鏡をかけてカメラを真っすぐ見ている。

最初に挙げたいのはDreams Universe™で作られた傑作、sacboy2003Ethlxです。sacboy2003は素晴らしい曲を発表しているDreams Universe™のオーディオアーティストですが、『Ethlx』はその中でも突出しています。Dreams Universe™でこれだけのものが作れるのかと衝撃を受けた見事なトラックです。ぜひ聴いてみてください。それからLady_SnipeShotにも賛辞を送りたいです。既に話題にあがったことがあるかわかりませんが、彼女はハイクオリティなボーカル作品をアップロードしているクリエイターで、リミックス可能な形にしているのが素晴らしいです。これはまさにドリームズ・ユニバースのライブラリに欠けているもので、彼女は皆のために作品を提供してくれています。

『Musicalum』のプレイ中の画像。画面中央には柱に囲まれた黄色い木のイメージがあり、画面の両側にはボタンに対応したサークルが配置されている。

『Musicalum』のプレイ中の画像。画面中央には柱に囲まれた黄色い木のイメージがあり、画面の両側にはボタンに対応したサークルが配置されている。

少し前にComputer_CatNicco555が作ったMusicalumというリズムゲームをプレイして夢中になりました。まるで昔のEyeToyゲームのようで、音楽に合わせてさまざまなビートを刻んでいくのですが、インタラクションの完成度が『Beat Saber』のように見事に決まっています。どうしたらこれだけのものを仕上げられるのかがわかりません。私自身Dreams Universe™でリズムゲームを作ろうとしたことが何度かあるのですが、ゲームデザイナーでない私には心地よい感覚を生む細かな心理的手法がわかりませんでした。この作品ではそこが見事に作られており、使用されている音楽も素晴らしく、ステージのバラエティも豊富です。

『PROTOLAND』のプレイ中の画像。カラフルなステージ内で、プレイヤーがロボット昆虫型の敵を撃っている様子。

『PROTOLAND』のプレイ中の画像。カラフルなステージ内で、プレイヤーがロボット昆虫型の敵を撃っている様子。

最後にオススメしたいのは音楽というよりサウンドデザインに注目してほしいPaulo-LameirasPROTOLAND体験版です。サウンドデザインの面で見事なスタイルが用いられ、それが上手くいっていますね。ただ派手な方向にまとめることもできたと思いますが、ロボットがバラバラになる際のディテールなど、繊細な工夫が随所に凝らされています。クリエイターのサウンドデザインへのこだわりを感じると嬉しくなりますね。そのこだわりが作品のレベルを押し上げていると思います。

Dreams Universe™のユーザーガイドはただいま作成中。これからプレイのヒントに関するコンテンツを増やしていく予定なのでチェックをお忘れなく!