先取りドリームビュー: Lystre

ささやかなアドベンチャーゲーム「Lystre」をもっともよく表す言葉を挙げるなら、それは“思いやり”。カートゥーン調の鳥のキャラクターになって穏やかな小島を散策すると、気持ちがほぐれていくのがはっきりと分かります。ですが、そのプレイフィールだけではなく、演出にも注目すべきでしょう。

心が落ち着くように丁寧に配色された、フラットカラーの3Dアートスタイルは、旅をワクワクさせるものにしつつも、見づらさはまったく感じさせないデザインです。そして、「Lystre」では細かいディテールの選び方にも丁寧な仕事ぶりが見られ、主人公が丘を駆け下りるときに両手の翼を広げてバランスを取るなど、意外なこだわりも見せてくれます。

「Lystre」の短い動画。鳥である主人公が、両手を広げて丘を駆け下りる

作者のFlorence Monnier、通称fluximuxは、ドリームズ・ユニバースでミニマルなアートスタイルの作品を手がけていることで有名なフランスのクリエイターです。今回のインタビューでは、「Lystre」のインスピレーションとなった思いがけない出会い、Dreams Universe™でのフラットカラーの3Dアートスタイルの制作、そして“引き算のデザイン”のテクニックについて、fluximuxに詳しく語ってもらいました。


青い海に浮かび、頂上には灯台のある「Lystre」の島の全景

青い海に浮かび、頂上には灯台のある「Lystre」の島の全景

今回のプロジェクトについて教えてください!

「Lystre」は色鮮やかな小島を舞台とした小さな3Dゲームで、翼の折れた小鳥を擬人化したキャラクターが、灯台守として働く1日目から始まります。このゲームの根底には、障がいと公平についてのメッセージを込めました。

このゲームのアイデアの元となったのは何でしょうか?

「Rime」と「Iloilo」を数週間前にプレイして、それに触発されてカラフルなアートスタイルの島を作ったのがきっかけです。また、「ゼルダの伝説 風のタクト」も参考にしました。ストーリーを考えたのはその後で、キャラクターは鳥にしたいと決めました。数ヶ月前、マンションの壁に挟まっていた鳥を逃がしたことがあって、それ以来鳥のことが大好きになったんです。

このゲームを“ちょっとしたウォーキングシミュレーター”と表現されていますが、本作を面白くしている要素は何だと思いますか? また、あなたの想いをどのように今回のプロジェクトに反映させたのでしょうか?

私にとって、面白いウォーキングシミュレーターとは、舞台とストーリーの両方に魅力が感じられるものです。今回のミニゲームでは、私自身が散歩したいと思える場所を本気で作ろうと考えました。

プロジェクトが進むにつれ、いくつかのクライミング要素を追加しましたが、ほとんどは必須ではありません。最終的には散歩以外の要素も加わりましたが、ゲームの雰囲気を楽しんでもらえればと思っています。

「Lystre」の主人公である、翼の折れた鳥を擬人化したキャラクター。オレンジ色のポンチョを着て、鳥小屋に続く道のそばに立っている

「Lystre」の主人公である、翼の折れた鳥を擬人化したキャラクター。オレンジ色のポンチョを着て、鳥小屋に続く道のそばに立っている

操作キャラクターとなる灯台守について詳しく教えてください!

まだ名前はありませんが、主人公は障がいを持った小鳥で、仕事の初日ということで少し緊張しています。

Dreams Universe™でも特に美しい3Dアートスタイルですが、これはどのように生まれたのでしょうか? 同じようなビジュアルを目指しているクリエイターに向けてアドバイスがあれば教えてください。

いろいろな技術を使ってフラットカラーの3Dアートスタイルを作ろうと試行錯誤を続けていたとき、Media MoleculeのDreamsComのTwitch配信で行われたrocky_with_a_gunへのインタビュー(新しいタブで開く)で、彼が使っているテクニックを解説してくれたのですが、そのおかげでプロジェクトが大きく前進しました。今も暗い色に対してうまく応用できてはいませんが、それでも十分です。

「グレード&エフェクト」ガジェットで、「明るさ」と「ブルーム」を最小にした後、それぞれのスカルプチャーで「グロウで発光」をオフにしてグロウを上げるんです。

rocky_with_a_gunのインタビューとSakkusMindのオシャレなアートのためのチュートリアル動画(新しいタブで開く)はぜひ見てみてください。私はペイントガジェットやテキストガジェットをプロジェクトで最大限活用していますが、そのガジェットを率先して使うことも大事だと思います。

Dreams Universe™クリエイターrocky_with_a_gunの最新のツイート。fluximuxも参考にした、フラットシェーディングに関するチュートリアル動画が載せられている

Dreams Universe™クリエイターrocky_with_a_gunの最新のツイート。fluximuxも参考にした、フラットシェーディングに関するチュートリアル動画が載せられている

Dreams Universe™では、あなたのアートスタイルは落ち着いた色合いとくっきりしたラインを用いた必要最小限のデザインで有名ですが、今回の作品でもそのスタイルがはっきりと現れているように思えます。このようなスタイルで作品を作ることの魅力や楽しみを教えてください。

インディーゲーム好きとして、そういったスタイルのアートが使われたゲームには心を惹かれますし、デザイナーが使っているカラーパレットを見るのも好きです。Baby Birdを初めて作ったときから、自分らしいスタイルを確立しようと取り組みました。こういったアートスタイルを作り出すのにはかなり時間がかかりましたが、自分らしい、お気に入りのスタイルを見つけることができたと感じています。

「Lystre」の操作キャラクターが草むらに立って灯台の入り口をながめているシーン

「Lystre」の操作キャラクターが草むらに立って灯台の入り口をながめているシーン

ドリームズ・ユニバースではむしろアート作品のクリエイターとして有名なあなたですが、今回はプレイヤーが存在するプロジェクトを手がけました。ゲーム開発に興味を持ったのはいつ頃でしょうか? また、これまでのゲーム開発の過程で最も大きな学びは何ですか?

もともとDreams Universe™は、子供の頃に遊んだゲームのシーンや要素を再現するためだけに購入して、ゲームを公開するつもりはありませんでした。

しばらくして、既存のデザインやゲームプレイを再現して練習しながら、コミュニティに役立ちそうなアセットを公開しているうちに、もっとオリジナリティのあるコンテンツを作りたいと思うようになりました。Dreams Universe™にクリエイター魂を刺激されたと言ってもいいかもしれませんね。

ゲーム開発をする中で役に立ったのは、「ICO」や「ワンダと巨像」を手がけた上田文人氏が言っていた“引き算のデザイン”という概念です。これは、ゲームに対してシンプルでミニマルな視点を持ち、一歩下がって、何を省くことができるかを考えることですね。

完成したプロジェクトの公開日は決まっているのでしょうか?

まだ決まっていませんが、10月か11月中には公開したいと考えています。

Dreams Universe™のユーザーガイドはただいま作成中。これからプレイのヒントに関するコンテンツを増やしていく予定なのでチェックをお忘れなく!