Moleculeプロフィール: Amy Phillips

Amy Phillipsの肩書は、「ツールコードの大神官」。こんな肩書きが書かれた名刺なんて、かっこいいに決まっていますよね。正式には「リードツールプログラマー」という、そこまで壮大ではない役職名ですが、彼女と彼女のチームは、スタジオ内の様々なチームが必要とするあらゆるツールを作り上げるという非常に重要な役割を担っています。今回はそんな彼女に、パズルへの愛、みんなの抱える課題を解決すること、Media Moleculeの特徴であるランダムさなどについて語ってもらいました。

よろしく、Amy! Media Moleculeではどんな仕事をしていますか?

Amy Phillipsの写真。

Amy Phillipsの写真。

Amy Phillipsといいます。Media Moleculeのツールコードの大神官です。もちろん、残念ながらこれは正式な役職名ではなく、7年前にGDC(Game Developers Conference)に参加した時に考えたものです。参加するにあたって名刺を作ってもらう時、役職は自分で決めていいというやりたい放題のシステムだったんです。だからツールコードの大神官にしました。スタジオ内での正式な役職はリードツールプログラマーですが、大神官と呼ばれるのが気に入っています。パワフルでぶっ飛んだ響きですし。

では、実際の日常の仕事ではどんなことをしてるんですか? Dreams Universe™で使われるツールを改良する仕事ですか?

違います。そう思うのも無理はないのですが、私たちはDreams Universe™でプレイヤーが使うツールを作ってるわけではありません。ツールチームのメンバーは4人で、簡単に言えば、プレイヤーが使うツールではなく、Media Moleculeの開発陣が使うツールを作っています。Media Moleculeのスタッフが仕事を進める上で必要になるあらゆるものを作ったり、調達したりする仕事ですね。そのためにスタッフみんなと話し、何が問題を引き起こしているのか、何が作業を遅らせているのか、何が作業フローを滞らせているのかを把握し、彼らを救うために何ができるかを考えていることが多いです。ビルドが常に統一されているようにしなければならないので、プログラマーが新しいコードをチェックインするたびに、そのコードをビルドして、そのコードが何かを壊していたらすぐにプログラマーに警告するシステムがあります。やっていることは簡単ですが、とても役に立つんですよ! こういったシステムによって、新しいコードのビルドを素早く作成し、QAやコンテンツクリエイターなど、そのビルドを必要とする人に届けることができます。

AmyがMedia Moleculeでの仕事で一番好きだったのは『リトルビッグプラネット』。

AmyがMedia Moleculeでの仕事で一番好きだったのは『リトルビッグプラネット』。

それから、自動テストも作りました。コードがチェックインされると、そのコードに対して一連のテストが実行され、何かを壊していないか確認できるんです。また、ローカライズも支援しています。ゲームに新しく追加されたテキストを翻訳して、フランス語やスペイン語でプレイできるようにし、未翻訳のテキストがないようにします。あとは、ソースコントロールのために、データをシャッフルするようにあちこちへ移動させることもあります。ソースコントロールというのは、ソースコードを管理するためのシステムで、何がどう変わったのか、なぜ変わったのかを確認するためのものです。このシステムによって、過去の特定のバージョンのビルドを復元することもできるので、例えば以前にプレイヤーに配布したバージョンを再現したりできます。みんなが気づかず見逃している問題というのは大抵がツールの問題で、そこがいいところなんです。おかげでバラエティに富んだ仕事ができますし、スタジオ内のさまざまな人と話すこともできますからね。

ツールに関する要望に一定の傾向はありますか? それとも、ニーズによってさまざまなのでしょうか?

全体的には、かなりバラバラです。私たちのチームはスタジオ内にあるさまざまな部署と仕事をしているので、部署によって全く異なる要望が出ます。チームでは、さまざまなリクエストへの対応方法について最新の文書を取りまとめようとしています。なぜなら、繰り返し何度も出てくる要望もあるのからです。例えば、「クラッシュするから、何が起こったのかを解明するために、このクラッシュを示すシンボルを作ってほしい」という要望はよくあります。でも、あらゆる要望がランダムに出てきますね。

Amyによると、『リトルビッグプラネット』には、スタジオの特徴であるランダム性が完璧に表れているという。

Amyによると、『リトルビッグプラネット』には、スタジオの特徴であるランダム性が完璧に表れているという。

では、実際に来た要望に対して、どんなツールを作っているのですか?

よく求められるのは、ビルドをできるだけ早く取得することです。2020年にみんなが自宅で仕事をするようになったとき、超高速ネットワークが使えなくなりました。オフィスでは超高速でビルドをダウンロードすることができていたのが、各自の自宅のネット環境に依存するようになったんです。そこで、ビルドを配布するためのツールを改良して、より弱い帯域幅でも利用できるようにする必要がありました。そのために、ローカルハードディスクにあるものを活用した上で、本当に必要なものだけをネットワーク経由でダウンロードできるように、たくさんのコードを設計しました。技術的な要求の多い作業でしたが、私はプログラマーなので、そういった技術的なことは好きなんです。以前はネットワークプログラマーとして、各種の興味深い問題や厄介な問題に取り組んでいました。『バーンアウト』というレーシングゲームの開発に携わっていた頃、ネットワーク上のどこからでもレーシングカーの見た目や挙動が同じように見えるようにしようと取り組んでいた時は特にそうでした。

どうしてゲーム業界で働くようになったんですか?

最初は全般的なコーディングの仕事から始めて、その後しばらくはAIのコードを書いて、それから正式にネットワークコーディングの世界に入りました。それがCriterion Gamesで『バーンアウト 3』の開発に携わり、ゲームをオンライン化する仕事をしていた時期ですね。その後Media Moleculeに移り、『リトルビッグプラネット』の初期にネットワークプログラマーをしていました。しばらくして産休に入って、復帰後は週2日のパートタイムを希望していたのですが、ネットワークコーディングの仕事は残念ながら週2日では無理だったんです。それで、他にできる仕事を探していた時に、スタジオ全体のあちこちに見過ごされているさまざまな問題があることに気づきました。それで、そのような問題の解決を仕事として引き受けるようにしたら、何かが必要な時の相談窓口という感じで、とてもみんなの役に立てたんです。

Amyは、開発チームが『リトルビッグプラネット』に取り組んでいる時はどんなゲームになるのかよくわかっていなかったが、完成したものはとても気に入っているという。

Amyは、開発チームが『リトルビッグプラネット』に取り組んでいる時はどんなゲームになるのかよくわかっていなかったが、完成したものはとても気に入っているという。

その後、私の役割は進化していきました。何かを一から作り直すのではなく、特にうまくいっていないものを見つけて、うまくいくように手を加える仕事です。すぐにフィードバックがもらえるので、とてもやりがいがありますよ。例えば、ビルドのディストリビューションを改良することでUI(ユーザーインターフェイス)をより良いものにして、お気に入りのビルドをリストの一番上に置けるようにした時なんかは、即座に反応が返ってきます。いいものを渡してみんながお礼を言ってくれるのは素敵ですよね。

コーディングは大学で学びましたか? それとも独学で身につけましたか?

笑っちゃうんですけど、成り行きで身につけたという感じです。もともと数学がやりたくて大学に行って、1年目は数学を学んだけど、すごく難しかったんです。だから2年目と3年目は物理に転向して、それで少し楽になりました。でも、なんというか、あまり面白いと思えなかったんです。それで、3年生まで物理を学んだ後に、また転向して、コンピューターサイエンスを1年間学びました。何を学ぶかを柔軟に選ぶことができる大学だったので本当に助かりました。それで、コンピューターサイエンスをやってみたら本当に楽しくて、なんとなく自分に合ってる感じがしたんです。

コンピューターサイエンスの学位を取得して卒業した後、当時Big Blue Box Studiosで『Fable』の制作に携わっていた友人に誘われて、週末にギルフォードにある彼の家に遊びに行きました。その時、ちょうど締め切り間際だったらしくて彼は会社に呼び出されて、私もついて行ったんです。そこで親切でフレンドリーな人たちに会って、オフィスにスクーターとお菓子が置いてあるのがすごくクールに見えて。それで、「ビデオゲームね、これなら私にもできるかも」と思ったんです。そしてギルフォードのゲーム会社すべてに履歴書を送ったら、Criterionから返事が来て、そこで働くことになったわけです。だから、私がこの仕事をするようになったのは、ほとんど超ラッキーな偶然なんですよ。

Media Moleculeでの仕事で一番面白いと思うことは何ですか?

『リトルビッグプラネット』はプレイヤーを創造性の世界へ連れて行ってくれる。Amyはそこが好きだという。

『リトルビッグプラネット』はプレイヤーを創造性の世界へ連れて行ってくれる。Amyはそこが好きだという。

それは間違いなく、ここにいる人たちです。私はMedia Moleculeのみんなと一緒に働くのが大好きなんです。とても賢い人たちだけど、同時にとても親切で可愛らしくて、とてもクリエイティブで。Media Moleculeで誰かと話す時はいつも、基本的に人間同士として話していて、役職は二の次という感じで、とても平等なんです。まずは人として、役職はその次で、物事がどんなふうに進んでいるか、どんな問題を抱えているか、何が起こっているかについて何でも話し合える、この雰囲気が大好きです。それに、ツールプログラマーとしても有益な環境です。なぜなら、多くの場合、誰かが「こんなものが欲しい」と言っても、その人が本当に必要としているのはそれじゃない可能性が高いからです。だから、なぜそれが欲しいのか、達成したい目標は何なのか、その要望の全体的な背景は何なのか、といったことを遡って質問して明らかにしていかなければいけません。そうやって全体的な背景を把握して初めて、他の人たちもそれを望んでいるのかどうか、どんな形で実現するのがベストか、要望の言葉通りでなく、本当にやりたいと思っていることを理解できるからです。

Media Moleculeでこれまで携わった作品の中でお気に入りのものはありますか?

最初の『リトルビッグプラネット』でしょうね。とても大きな挑戦でしたから。自分たちが何を作っているのかよくわからないまま、どんどん形になっていったんです。正直言って、たくさんの興味深いアイデアが飛び交って、色々な実験をやっていただけだったのに、どうやって1つの製品としてまとまったのかよくわかりません。当時の私はまだネットワークプログラマーでしたが、そのランダムで実験的な性質がとても好きでした。そのランダムさは、現在のチームにもかなりの部分が受け継がれていると思いますけどね。

そう、これもMedia Moleculeの好きなところですね。クリエイティブで面白いことを見切り発車でどんどんやっていく、そして、とても協力的な空気の中でそれをやってるところ。1人の天才が壮大なアイデアを持っている感じではないんです。作ろうとしているものの核のようなものがあって、みんなが意見を出したり、その核に合うようなものを提供して作り上げていくんです。社内の誰でもクリエイティブな部分に関われるというのは、ゲームスタジオとしてはかなり珍しい体制だと思います。

ツールのプログラミングの仕事がしたい人にアドバイスはありますか?

そうですね、学位を取得しておくのは役に立つと思います。コンピューターサイエンスのようなプログラミング関連の学位を取れば、たくさんの基本的な概念を学ぶことができて、自分のコードがなぜそのように動作するのか考える時などに役立つからです。自分が書いたアルゴリズムや使っているデータ構造、そしてそれがキャッシュをどのように使っているのか、パフォーマンスがおかしくなる時はどんな原因があるのか、といったことを理解できていれば、コードの欠陥を特定するプロセスはかなり簡単になります。

一方で、ゲームジャムも素晴らしい機会になると思います。人と会い、コネクションを作れるのはもちろん、単に試しに何かをやってみたり、創造力を発揮したりできる場でもありますから。それに、包み隠さず言うと、自分が本当にゲーム制作をずっとやっていきたいかどうか考えるには、ゲームを完成させる難しさを知る必要があると思うんです。ゲームを作り始めるのはとても簡単ですが、完成させるのは本当に難しいものです。大学でなら必要なことを教えてくれるコースが用意されているので少しは楽だと思いますが、独学でやろうとすると、まず何が必要なのかを自分で考えて、その上でさらに自分で学習しなければいけません。

『リトルビッグプラネット』からMedia Moleculeのその後の作品に受け継がれるランダム性と創造性を、Amyは高く評価している。

『リトルビッグプラネット』からMedia Moleculeのその後の作品に受け継がれるランダム性と創造性を、Amyは高く評価している。

Media Moleculeのスタッフは、みんなデスクに面白いものを置いていますね。今、デスクには何を置いていますか?

うーん、あまり面白いものはありませんよ。何があるかな? ああ、これはパズルの本ですね。『Journal 29: Oblivion』です。簡単に言うとパズルがたくさん載っている本なんですけど、水平思考が必要なパズルなので、ちょっと複雑なんです。まず、そのパズルが何なのかを理解することから始めないと解けないんですよ。でも、パズルが好きな人ならとても楽しめると思います。それから、友人からのポストカード。Webサイトの更新を頼まれて、お礼に貰った本に挟んであったものです。あとはKindleがあるのと、Media Moleculeのピンバッジが色々と。私のデスクにあるもので一番面白いのは、この素敵なマグカップかな。「Cup of Courage(勇気のカップ)」といって、励ましの言葉がたくさん書かれてるんです。「あなたは有能」「恐れないで」「Worrier(心配症)ではなくWarrior(戦士)であれ」「自分のペースで」「あなたは自分で思うより強い」みたいな感じです。ここにはユニコーンの絵があって、「あなたは魔法のようで、とても価値がある」と言っています。ユニコーンがいるだけで、何でも良くなりますね。

Dreams Universe™のユーザーガイドはただいま作成中。これからプレイのヒントに関するコンテンツを増やしていく予定なのでチェックをお忘れなく!