Moleculeプロフィール: Luci Black

適当に並べられた文字を、いい感じの文章に仕上げてほしい? そんな時こそ、言葉の天才、Luci Blackの出番です。Media Moleculeが皆さんに向けて発信するあらゆる文章が文法的に正しく、100%正確であるかチェックするのが、歩くスペルチェッカーこと彼女の役目なのです(だから、誤字を見つけたら、それは彼女の責任ということになりますね)。それだけではありません。ゲーム内のテキストの修正、複雑なトピックを解説するガイドの執筆、Media Moleculeの言葉使いの一貫性と美しさを保つなど、彼女の仕事は他にもたくさんあります。文章専門の監督のようなものです。今回は、そんなLuciが『F-ZERO』で兄弟に連戦連勝していた過去、『Tearaway』にジョークを盛り込む仕事を担当したこと、そしてMedia Moleculeの全タイトルで仕事をしてきたことについて、話を聞きました。

よろしく、Luci! Media Moleculeではどんな仕事をしていますか?

Luci Blackの写真。

Luci Blackの写真。

Media MoleculeではUXライターの仕事をしています。うわあ、考えてみるとこの5月でもう15年も経ちますね。私自身、この仕事を始めるまでUXライターが何なのかも知りませんでしたし、今でもかなりニッチな職種ですよね。でも、要するに、すべてのツールの解説や名前やその他、ユーザーの皆さんの画面に表示されるあらゆるテキストを書く仕事です。でも、それだけではありません。一般の皆さんの目に触れるテキストのほとんどは、まず私のところを通るんです。

つまり、ドリームズ・ユニバースの辞書でありスペルチェッカーのような存在でしょうか?

そうですね、ほぼそんな感じです。私の仕事にはいくつか種類があって、まず、ウェブページなどのテキストを編集する仕事。文章がMedia Moleculeのトーンに合っているか、文法的に正しいか、句読点やスペルは正しいか、といったことを確認します。それから、ツールの解説なんかも作っています。これについては、ゲーム内のツールを作っている人(通常はプログラマー)にいろいろと質問しなければいけません。バカみたいな質問も、そこまでバカみたいではでない質問もしますが、とにかくそれぞれのツールやオプションにどんな役目があるのか、どんな名前がふさわしいかを正確に理解できるまで、ひたすら質問し続けます。そして、自分でもできる限り実際にいじくりまわして、どんな感じか理解します。そしてついに、それを言葉で書き表すんです。

Luciがテキストを担当した『Tearaway®』のスクリーンショット。

Luciがテキストを担当した『Tearaway®』のスクリーンショット。

それから、『Ancient Dangers: A Bat's Tale』のように、ストーリーの骨格はあるけれど、トーンやキャラクター設定がまだできていないゲームや、ジョークの味付けが足りていないゲームを任されることもあります。そういう時は、まずはただゲームをプレイして、それからそのストーリーが生きてくるように手を加えます。『Ancient Dangers』も『Tearaway』の1作目もそうでした。

Dreams Universe™のツールの名前はどうやって考えているのでしょうか?

時には、そのツールを作った本人や影響を与えたデザイナーが、本当に素晴らしい名前のアイデアを持っていて、そのまま採用することもあります。『リトルビッグプラネット』のツール名を受け継ぐこともありますね。すでにある名前を使えるのに、わざわざゼロから考える必要はありませんから。それから、ファンキーでクリエイティブな名前は、思いついたアイデアをもとに類語辞典を調べたり、うまい言い方を探して資料にあたったりしてできたものが多いです。例えば、『Ancient Dangers』では、かなりの時間をかけて古代の怪物神話などに関するネットの記事を読みました。時には、色覚異常について調べたり、角度について数学の勉強をすることもあります。そうやっていくつかの候補を考えて、プログラマーやデザイナーに見てもらって、基本的にはみんなからそれぞれ一番いいと思うものを聞くようにしています。

皆さんが作品を作る時に助けてくれるゲーム内のテンプレートテキストもすべて、Luciが編集を担当!

皆さんが作品を作る時に助けてくれるゲーム内のテンプレートテキストもすべて、Luciが編集を担当!

でも、中には「インパスト」のように、本当にクリエイティブな名前もあります。個人的に気に入っている名前のひとつです。これはスタイルモードのツールで、フレックを膨らませたりできるものです。それで、現実世界のインパストという絵画の手法を連想しました。絵の具を厚く盛り上げることで、とても立体的な仕上がりになるんです。そのことをKareemに話したらとても気に入ってくれて。とはいえ、私には自分で決めたルールがあります。いつも守っているようには見えないかもしれませんが、それでもあるんです。例えば、どうしても無理な場合を除いて、どんなものも、それが何をするものか説明されていなければいけません。適当ではダメなんです。

Media Moleculeのゲームのストーリーで使われるテキストを書くようになったのはどんな経緯だったのでしょうか?

そうですね、何と言えばいいか、私はシナリオライターではありません。ストーリーは書かないんです。私にはその才能はありません。ストーリーのアイデアや構成は他の人が考えてくれて、それをプレイヤーに伝えるのが私の役目です。だから、例えば『Ancient Dangers』の時は、Richard [リードライターのRichard Franke]がセリフの吹き出しには仮のテキストを入れておいて、ストーリーの大事な要素が書かれた資料と一緒に渡してくれました。そこからの私の仕事はハーブのセリフに個性を与えることで、当時は「ニューヨークのタクシードライバー」をイメージしていました。その頃は頭が真っ白で何も思いつかないことがあって、Jen Simpkinsがよく助けてくれました。1~2行のセリフを出してくれて、それが本当にぴったりハマるんです。『Tearaway』の時はまた違って、チームがストーリーのビジョンを持っていました。でも、すでにある仮のテキストを使って作業できなかったので、その方が大変でした。

Luciがストーリーに参加したゲーム『Tearaway』のローンチトレーラー。

だから、同僚のRex[『Tearaway』でクリエイティブ・リードを務めたRex Crowle]とつきっきりで実際にゲームをプレイしながら、「こんな感じにしたい」という話を聞くしかありませんでした。「これに関するジョークを入れたい」とか「口調に特徴を出したい」とか。それをメモして、吹き出しのセリフを書いていくんです。そしてさらに、私が書き加えたテキストでプレイしながらもう一度同じことを繰り返して、かなり大変でした。でも、すごく楽しかったです。そういう仕事も好きですが、ツールの説明を書くのも好きですね。複雑なアイデアをシンプルに説明することにやりがいを感じるんです。どうすれば見る人にちゃんと届いて理解してもらえる言葉で「これはこういうものです」と伝えられるかを考えるのが好きですね。

今まで携わったプロジェクトの中で、特にお気に入りの仕事はありますか?

このインタビューの前にそれを考えていたのですが、ストーリーの仕事とツールの解説の仕事、どちらかを選ぶのは無理ですね。本当に選べません。どちらも大好きな仕事だし、「これしかない」というものが出来た時の達成感も大きいので、甲乙つけがたいです。ストーリーの仕事はなんというか、書く作業が楽しくて、一人で笑いながら作業したりできますが、ツールのほうは難しい分、達成感がとてつもなくて。だから、本当にどうしても1つ選ぶのは無理です!

この業界にはどんな経緯で入りましたか?

ゲーム業界で仕事を始めたのは、Siobhanと一緒だった会社での制作の仕事からです。その後、Creative Assemblyに入って、そこでも『Total War』の制作をしていました。最初の大きな仕事は、『Shogun: Total War』のローカライズをまとめ上げるというもので、そこから本格的なキャリアが始まりました。その時はテキストの仕上げ作業もたくさんやりました。その後は省いて、Media Moleculeに入ったのは… 当時はまだ娘が小さかったので働きに出ていなかったのですが、Siobhanが『リトルビッグプラネット』のローカライズとテキストの仕上げを担当する人を探していたんです。それで、私が契約社員として参加することになりました。KareemやKengo[『リトルビッグプラネット』リードレベルデザイナーのKengo Kurimoto]と一緒に仕事をして、ヘンテコなキャラクターたちのセリフを書くのはとても楽しかったです。

LuciはMedia Moleculeの最初のゲーム『リトルビッグプラネット』でもテキストを書いていた。

LuciはMedia Moleculeの最初のゲーム『リトルビッグプラネット』でもテキストを書いていた。

笑いに溢れた現場だったのを覚えています。その後、Media Moleculeでかなり長くプロデューサーを務め、以前からよく携わっていたローカライズのコーディネートの仕事を主に担当していました。でも、Dreams Universe™の制作をしているうちに、複雑なツールを大量に扱うようになって、その説明が必要になってきたんです。元々、制作の仕事は大変だし、自分に向いているとも思えませんでした。それで、「私がやる、私ならツールの説明ができる」と言ったんです。それ以来ずっと、私のキャリアの中で最高に幸せな仕事が続いています。この業界でずっとテキストに関わる仕事をしてきましたが、実質的に専門の役割になったのはここ数年のことです。

この業界にはどんな経緯で入りましたか?

実は私、ソフトウェア工学の学位を持ってるんです! 社会人入学したアバーティ大学ダンディー校で学びました。そこで出会った元パートナーはゲームが大好きでゲーム業界志望でしたが、私のほうはその時点では自分の人生をどうしたらいいのか見当もついていませんでした。17歳で学校を辞めてしまって学歴が低かったので、ソフトウェア工学の学位を修めて、ゲームの道に進もうと漠然と考えていましたが、私には向いていませんでしたね。いいコードを書くことはできても、ものすごく時間がかかったし、難しい概念のいくつかは理解しきれませんでした。でも、学位を取ったことでこの業界で最初の仕事につく役には立ちました。

『Dreams Universe™』の制作は、『Tearaway』や『リトルビッグプラネット』のようなMedia Moleculeの他のタイトルと比較してどうでしょうか?

とても変わっていますね。私が携わった他のゲームはみんな、パッケージに入れて完成させるという最終目標がありました。一方でDreams Universe™は、その後もずっと発達し続けている生き物のようなタイトルです。正直言って、最初は一体何を作ろうとしてるのか理解するのも難しかったぐらいです。でも、色々なツールが目の前に置かれた瞬間、「ああ、そういうことか!」と思えました。Dreams Universe™の開発はとても長く続いていて、私がMedia Moleculeに在籍している期間の大部分を占めているのに、こんなことを言うのは変ですけどね。私は最初の頃、『Tearaway』と『Tearaway Unfolded』にかかりっきりで、こつこつとDreams Universe™に取り組んでいる他のチームのことはあまり見えていませんでした。それにしても、Dreams Universe™は他のタイトルとはまったく違いますね。コミュニティとの関わり方が、『リトルビッグプラネット』とは別次元です。

『Ancient Danger's: A Bat's Tale』では、カットシーンからチュートリアルまで、あらゆるテキストにLuciのユーモアを見ることができる。

Media Moleculeに入社して、一番楽しかったことは何ですか?

やはり『Tearaway』ですね。『Ancient Dangers』でも同じような感覚はありましたけど。『Tearaway』はとてもエモーショナルなゲームで、関わった全員がのめりこんで、魔法がかかっているような現場でした。ストーリー全体がとても幻想的でキラキラして紙吹雪が舞っていて、その小さな世界に吸い込まれていくような感覚でした。ゲーム機に指を突っ込むような、常軌を逸したことを色々やっていたんですよ。私が知る限り、それまで誰もやったことがなかったことです。

UXライティングの仕事がしたい人にアドバイスはありますか?

UXライティングはまだかなりニッチな分野だし、私も紆余曲折を経てたどり着いた仕事なんですよね。でも、多くのゲーム開発者にとって大事なのは、何かを作ることだと思います。あるいは作ったものを改良すること。例えば、友達がDreams Universe™や他のクリエイティブなゲームで何かを作ったとしたら、あなたが書いたテキストでそれをより良くしたり、友達の作品に命を吹き込むことはできませんか? 自分が本当に何かに夢中になっていることを知ってもらいたければ、やってきたことを人に見せて、どんなところからでもその世界に踏み込んでいくしかないと思います。ぜひ、大学へ行ってゲーム関連の学位を取ってください。そして、どんな仕事でもいいからゲームの世界に入って、でも、そこがゲーム業界の中で自分の安住の地だと思わないこと。そうじゃない可能性もあるんですから。私は純粋にゲームプログラマーになろうと思ってプログラミングの勉強をして、制作の仕事でこの業界に入りました。でも、結局全然違うことをやっています。だから、とにかくまずは業界に入ること。そして、自分にできることをアピールして、それに一生懸命取り組むことです。この会社のトップアーティストだって、最初はQAの仕事から始めたんですよ。

Media Moleculeのスタッフは、みんなデスクに面白いものを置いていますね。今、デスクには何を置いていますか?

今、目の前にある机はかなり片付いていますね。ここは自宅なので、本当に面白いものは家の他の場所に持って行かれてしまうんです。仕事場ならそのまま机に山積みでしょうけど。でも、小さな卵型のシリコンのボールが3つあります。ぎゅっと握って握力を鍛えるもので、歳を取るとこういうものが必要になるんです。それから、リビッツの首振り人形。かなり長いこと持っているもので、本当に大好きなものです。あとは、タンポポの綿毛を透明な樹脂の中に封じ込めたオブジェ。これはAlex Evansがデスクに置いていたのを、「許可を得て盗んだ」ものです。見てるとどうなってるのか本当に不思議で、どうしても欲しくなったから。だって、タンポポの丸い綿毛を崩さずに、どうやって樹脂の中に封じ込められるんでしょう? ちっとも分かりません。本当にすごいですよね。

Media Moleculeで仕事をしていてよかったと思うことは何ですか?

リリースから3年目の今、Dreams Universe™を見ると、皆さんの才能のレベルは成層圏を突破していますね。コミュニティの中から、もっと多くの人が「ゲーム業界の」仕事に就けることを願っています。明らかに、それだけの実力があるんですから。『リトルビッグプラネット』の頃から、Media Moleculeのゲームに携わることの素晴らしい点は、ゲーム業界に才能ある人を呼び込めることです。「私たちのゲームのプレイヤーが」私たちの会社から仕事を得るかどうかは別として、能力のある人たちが、それを人に知ってもらって、そこから仕事に繋げられるのはいいことです。

私がかつてゲームにハマったきっかけは『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』や『F-ZERO』でしたが、今はDreams Universe™のような、自分ですぐにゲームを作れるソフトがあるんですもんね。ちなみに私、『F-ZERO』は本当に、ものすごくうまかったんですよ。いつも兄弟に勝ってました。どうしても私には勝てなかったみたいですね。でも、私がこの仕事でキャリアを積めたことは、本当にラッキーなことだと思っています。時々、夢じゃないかって、自分のほっぺたをつねってみるぐらいです!

Dreams Universe™のユーザーガイドはただいま作成中。これからプレイのヒントに関するコンテンツを増やしていく予定なのでチェックをお忘れなく!