第2回Impyアワードができるまで

コラボレーション、コミュニティ、ブランマンジェ、そして赤ちゃん: Dreams Universe™で作られたアワード授賞式の裏話

第2回Impyアワードのキーアート

第2回Impyアワードのキーアート

Dreams Universe™は団結の力をテーマにしたゲームであり、誰もが力を合わせて自由で多様性のある創作活動を楽しめるようになっています。というわけで、たまには盛大なパーティーを開かないとDreams Universe™とは呼べません。これまでもコミュニティと力を合わせて「DreamsCom」や「オールハロウズ・ドリームズ」といったさまざまなパーティーをゲームの中で開いてきました。

しかし今年の目玉と呼べるイベントは、やはり毎年恒例の表彰式であるImpyアワードです。2020年1月に初めて開催されたこのアワードは、Dreams Universe™に関わる全員が一堂に会して、1年のうちで特に印象的だったコミュニティ作品や出来事を振り返るイベントです。「このショーは、1年を通じてDreams Universe™に貢献してくれるすべての方々を称え、そしてDreams Universe™らしさを感じさせる内輪ネタやちょっとした味のある演出を楽しむための場です」と、ライブプロダクトリードのAbbie Heppeは話します。「賞を授与するという実際の行為よりも、そちらの方が私たちにとって本当に大事なことだと思っています」と付け加えます。

ですが、この輝かしいショーの裏では、計り知れないほどの苦労もありました。第1回目のアワードはMedia Moleculeのオフィスに人を招いてライブ配信するという形を取りましたが、2020年は予想外の事態に見舞われたため、2回目のショーを企画する際にはクリエイティブさが求められました。しかし、“クリエイティブ”という言葉はMmにいる全員のミドルネームですから、何とかなるだろうという結論に至ったわけです(ちなみに、この会社に入ると、上司からそのミドルネームを変えてくれと言われます。断れば、ボールがぎっしり詰まったプールの中で最後の一人になるまで取っ組み合いをする羽目になります)。

とはいえ、それは楽な道のりというわけではありません。スタジオのほぼ全員が在宅ワークをしているため、やることは明確でも多少の不安がありました。アソシエイト・プロデューサーのJamie Cookは次のように語っています。「ライブストリームをすべてゲーム内に取り込む必要がありました。つまり、イベント全体をゲーム内で制作する必要があったんです。これは並大抵の作業量じゃありません!」第1回目のImpyアワードは、どちらかというとぶっつけ本番に近い形で行われました。台詞を細かく表示するモニターなどもなく、自由奔放だったと言えます。シニア・コミュニティ・マネージャーのTom Dentは「カメラの後ろにある壁に数枚の台本が貼ってあって、Abbieと私はそれに従うといった感じでした!」と振り返ります。しかし、Dreams Universe™で開催する今年のショーは、コミュニティクリエイターAndymationBに依頼した司会者パペットを使い、台本、アニメーション、記録、秒単位でのスケジュール管理が必要でした。

第2回Impyアワードのステージ初期デザインコンセプト第2回Impyアワードのステージ初期デザインコンセプト

第2回Impyアワードのステージ初期デザインコンセプト

DreamsCom(とそれに付随する展示)は参考になる前例でした。「あのショーをやったおかげで、こういうこともできるという感覚がつかめたんです」とHeppeは話し、さらに次のように付け加えました。「ただ、Impyアワードの進行に合わせるのが大変でした。コーナーの締めくくり、ノミネートの発表、その後に必要な手順などには実際のスケジュールがあるからです」。しかも今回のショーは、前回よりもさらに凝ったものにしようと、全員が意気込んでいました。コミュニティが制作したキャラクターや報酬付きのクエストが楽しめる、プレイアブルなチップハブもその試みのひとつです。「アワード全体をもっと良くするため、デザイン、アート、音楽、QA、ローカライズなど、さまざまなリソースを投入しました。アワード自体がひとつのゲームのようなものでしたね!」とCookは笑います。しかしそれは、より多くのコミュニティクリエイターが、新しいやり方でイベントに参加できるチャンスでした。「このショー自体が素晴らしい試みで、大掛かりな仕事でした。だからこそ、こういうユーザー参加型の要素があると、よりコミュニティに密着したイベントが生まれるのではないかと思いました」とジュニア・コミュニティ・デザイナーのJamie Breezeは振り返っています。

第2回Impyアワードのステージ初期デザインコンセプト

第2回Impyアワードのステージ初期デザインコンセプト

アーティストのTheo Hayneは、オールハロウズ・ドリームズの直後からハブの制作に取り掛かりました。彼はDreams Universe™で試作を始めたとき、アール・デコ調のデザインに手ごたえを感じたといいます。「それを実際に作る前に、Miguel Sanz(UXデザイナー)と1週間ほど話し合いを重ねました。その結果、多少なりとも出来が良くなったのかもしれませんね」とTheoは嬉しそうに語ります。また、第1回Impyアワードのステージをアール・ヌーボー調でより華やかにしたバージョンや、木を使って柔らかく落ち着いた雰囲気のシアタースペースという案もありました。「アール・デコ調にしないのであれば、木のデザインを採用するつもりでした。でもスタジオの他の部分は前者2つのスタイルとマッチしていたんです。アートディレクターのKareem Ettouneyから、複数のスタイルを混在させるのではなく、どちらか一方に絞るようアドバイスを受けた結果、アール・デコ調を採用しました」と彼は振り返っています。

第2回Impyアワードのキーアート未完成版

第2回Impyアワードのキーアート未完成版

SanzはThe Game Awardsやアカデミー賞からインスピレーションを得て、デザインに関する詳細な資料を作成しました。幾何学的な模様と優雅な伝統を、Dreams Universe™のビジュアルとデザインに反映させることは、彼にとってやりがいのある挑戦だったといいます。「少し不気味さが出てしまわないかと心配していました。アール・デコはかなりインパクトが強いですから! だからこそ、温かく、幻想的で、よりDreams Universe™らしいデザインを目指しました」とSanzは話します。また、Hayneは次のように付け加えます。「Dreams Universe™のスタイルガイドにも書かれていますが、最も簡単なのは部屋と認識できる場所を使わないことです。例えば、天井があればそれを壊して、空間へと入るんです。ボリューメトリックを駆使して、注目したい部分を浮き上がらせることができます。ただ、それ以外の部分は紫色に消えてしまいますが。」

AndymationB’の‘Abbie’パペットと、'ブランマンジェ'のコリジョンが現れたImpyハブのスクリーンショットAndymationB’の‘Abbie’パペットと、'ブランマンジェ'のコリジョンが現れたImpyハブのスクリーンショット

AndymationB’の‘Abbie’パペットと、'ブランマンジェ'のコリジョンが現れたImpyハブのスクリーンショット

Breezeはその傍らで、この空間を親指と目で楽しむにはどうするかを考えていました。「チップハブはステージデザインと同じアプローチ方法を取りました。実際そこは小さなオープンワールドで、プレイヤーが自由に探索できるからです」と彼は明かします。いろいろな部屋でImpyアワードを集める宝探しや、階段をゆっくり登るPip Gemwalkerのようなコミュニティキャラクターを参考にしたささいなものまで、いくつもある部屋の安定性を確保するために徹底的な分析を行いました。「一から十まで考えすぎてしまうこともあります。ですが、それは自分だけでなく他の人々にも有益なことです。なぜなら、それをQAに渡して厳しくテストしてもらわないといけませんから」とBreezeは笑い、次のように続けます。「QAチームに関して特にすごいと思ったのは、パペットを動かせなくする方法を見つけてくれたことですね」エディットモードのハブで透明プレビューをオフにすると、部屋の中に“巨大なピンクのブランマンジェ”のようなものが詰まっているのが見えるそうです。QAチームのメモによると、問題のあるエリアにパペットが入れなくなるとのこと。プルプルしておいしそうですね。

また、QAチームには、Impyアワードにノミネートされた作品のプレイ動画をすべて録画し、法的な承認を得るという仕事もありました。シニアQAテクニシャンのCharlotte Woolleyは、動画の数が合計で267本(!)にものぼったと明かし、さらに、今年から追加されたホラー賞がチームのボイスチャットで起こした騒ぎについても話してくれました。「誰かがホラーゲームを録画していると、『ウワーッ!』という悲鳴が聞こえることもありましたね」ときには数時間に及ぶゲームのプレイ動画を録画しながら、ハブ(16か国語にローカライズし、VRにも対応)のテストを並行して行うなど、QAチームは忙しい日々を送っていました。さらに、イベントの進行や状況変化に合わせて4 つの異なるバージョンのハブをチェックしたり、Dreams Universe™の新しいゲームアップデートをリリースしたりする作業もありました。「私の知るかぎり、ライブコンテンツでこのような試みは初めてだったので、とても貴重な体験でした。テストした配置の組み合わせは数えきれません」とシニア・プリンシパルQAマネージャーのJamie Pendletonは話します。

ショーのオープニングアニメーション用ストーリーボード

ショーのオープニングアニメーション用ストーリーボード

その一方で、Heppe、Dent、コンテンツキュレーターのAlasdair Mitchellは、ノミネート作品の最終選考を行い、それらに対する法的な承認を得るために動いていました。その後、Mmの専門家とゲーム業界から迎えたゲストが、審査団として最終候補作の審査を行いました。同時に、新しい編集マネージャーが数日間かけてショーの台本を一心不乱に書き上げていました。ちなみに、この台本は「機械仕掛けのクジラに頼りすぎじゃない?」とか「ノーコメントで」などの評価も。完成した台本はシーンごとに分けられ、吹き替えの収録も並行して行いながら、アニメーターのMike Pang、Pablo López Soriano、David Campbellの手に渡りました。

ギャラリーの中で勝者を発表する際の別案

ギャラリーの中で勝者を発表する際の別案

「AndymationBは、私たちが必要だと考えていたあらゆる面でサポートしてくれました。用意してくれたパペットも申し分ない出来でした」とCampbellは話します。不規則に瞬きをしたり、さらには服の袖が物理法則に従って動くなど、ちょっとした仕草にも自然に見えるような工夫が凝らされており、Campbellをはじめとするスタッフがパフォーマンスにリアリティを持たせることができました。そして、Campbellの笑いのセンスは、今回のショーで見られた多くのジョークに活かされています。「何も映っていない画面でマウスを動かして、U字などの動きを想像しながら短い動画を撮るということをよくやります。人形のアニメーションにとらわれる必要はありません。ちょっとした台詞のタイミングで面白いことにトライして、それにどれくらいの時間がかかるかを考えることが重要です。そして、その時間を書き出し、キーフレームを設定し、シーンの中でキャラクターを動かして、自分で決めたタイミングに合わせてキャラクターのアニメーションを作るんです。何がいいって、Dreams Universe™ならこの作業を思い通りにできることですね」と彼は説明し、モーションコントローラーを使う手ぶりをしながら次のように続けます。「スフィアを作ってやりたい動きを自分で記録すれば、そのシーンにかかる時間や、笑いのネタにどれくらい合っているのかを確認できます」

後のサウンドデザインパスのために最終版に近いアニメーションを渡されたとき、オーディオデザイナーのEd Hargraveはすでにミニサウンドトラックを完成させていました。最終的に、彼は昨年のImpyアワードの公式テーマとなった、Dreams Universe™のミニゲーム“Dreamiverse Dash”のテーマをアレンジすることにしました。「私の好きなことのひとつは、アイデアの一部を取り出し、それを別のアイデアへと発展させ、自分たちが作る小さな物語に合わせることです」と彼は言います。昨年のショーはメインテーマがひとつでしたが、今年は3つまたは4つの異なるコンテキストで曲が使われています。「ハブに入る前はダイジェティックに始まりました。つまり、オーケストラが壁の向こう側にいて、曲に合わせて少しずつリハーサルをしているような感じです。それがこの世界で起きていることとして設定されているのです。やがて(メインのハブへ続く)ドアをくぐると、ダイジェティックではない、従来の形により近いBGMへと変化し、今起きていることに寄り添うようになります。このあたりは上手くいったと思います」とHargraveは振り返ります。カフェスペースではジャズ風にアレンジされたテーマが流れ、ギャラリーのBGMはRandy NewmanがPixar作品で使った音楽に影響を受けているとのこと。メインテーマをシンプルにすることで、再利用する道を無限にもたせつつ、それと同時に何よりも“Impyアワード”らしい組曲を表現しています。「どんどんバリエーションを増やすだけですから、永遠に作り続けられると思いますよ」とHargraveは笑顔を見せました。

宝探しの報酬として与えられるチップの初期デザイン

宝探しの報酬として与えられるチップの初期デザイン

その一方で、ショーは実際のタイムスケジュールに沿って行わなければなりません。そこで、クリエイティブ・ビデオ・エディターのTom Mansellの出番となりました。「私たちは映像制作会社ではないので、今年はかなりイレギュラーな対応をすることになりました」とMansellは言い、次のように続けます。「通常であれば、各チームは割り当てられた仕事をすべて終えてから次へ進むので、動画チームはそのときあるもので何かを作ります。ですが、今回はその逆で、最終的に完成させるものが動画でした。すべてが計画的に配置されていたので、トレーラーのように50ものカットを重ねる必要はありませんでした。収録し直す必要もなければ、アニメーターに時間を割いてもらう必要もなく、既に完成している状態だったんです。ですから、私の仕事はとても楽でしたね」

彼が最も難しいと感じたのは在宅作業だったそうです。自宅だからというだけでなく、赤ちゃんが間もなく生まれそうだったという事情もありました。「月曜日、火曜日、水曜日(ショーの前日)と作業を続けていたんですが、娘は結局産まれませんでした。もし水曜日の夜に産まれていたら、大変なことになってたでしょうね!」とTomは笑います。彼はハードディスクをスコットランドに送り、Dan Castroに引き継いでもらうというバックアップ案も用意していました。「ショーを待ってくれるなんて、私たちのことを考えてくれてたんですね。よくできた娘さんですよ!」とCookは微笑みます。第2回Impyアワードの知られざるヒーローは、彼女だったのかもしれません。Mansellはニヤリと笑いながら「何なら、コニーとか名づけるべきだったかな」と言っていました。

Mansellの後悔はともかく、ショーはMedia MoleculeとPlayStationのTwitchチャンネルで滞りなくライブストリーミングされました。これは、Dentが自宅からSNSアカウントを管理していたおかげです。「自分しかいない部屋でストリーミングソフトの再生ボタンを押しているのは、かなり変な感じでした。ひとつ間違えれば、私のノートPCから全部台無しになるわけですから!」と彼は笑いながら、次のように続けます。「ですが、ショーを文字通り目の前で見ながら、これは“本当の意味で”コミュニティの皆さんと一緒に見る初めての機会だと感じられて、とても嬉しかったです。うまくいくかどうか不安で、アップダウンの激しい時間でしたが、(Twitchの)チャットの様子や反応をじかに見ることができてとても興奮しました」今年はカメラの前ではなく後ろにいたことで、コミュニティと一緒に番組を楽しむという新しい視点を得られたと彼は言います。「“あっ、これは覚えてる! 面白かったなぁ!”などのコメントを見ながら、ImpyアワードがMmにとって、そしてコミュニティの方々にとって何のためにあるのかを改めて感じ取ることができました。授賞式なので勝者はいますが、皆さんの力が集まってこそ実現できたショーだったと思います。そして、チーム全員をこれ以上ないくらい誇りに思います。これまでの3、4カ月をかけて作り上げた素晴らしいものが、1時間の中で報われたのですから」

コミュニティキャラクターが登場する、ショーのオープニングアニメーションのスクリーンショット

コミュニティキャラクターが登場する、ショーのオープニングアニメーションのスクリーンショット

Heppeはうなずいて、次のように話します。「私が最も誇りに思っていることは、このチーム全体がひとつになったことです。全員がそれぞれユニークな特徴を持っているチームですが、今回はそれを実際の共同作業につなげることができたと思います。今回のようなイベントは、他のチームメンバーとは全く異なる方法で仕事をしたり、時には実験的なものを短期間で制作したり、コミュニティのプレイヤーと密接につながったりなど、ひとつのチャレンジになります。そしてその度に、このグループは今までになかったものを生み出すことができるのです。全員が協力して、お互いにフィードバックを与え、それをもとに自分の担当箇所を向上させていく姿を見るのはとても感慨深かったです。コンテンツの受け手であるプレイヤーや、Dreams Universe™の本当の魅力を理解していなければできないことだと思うのです。2年目にして、ゲーム業界では実験的ともいえるフィールドで開発できたことは、本当に楽しい経験でした。“こうすればいい”という明確な設計図がない中で、チームが新しいことを試してみようと意気込み、そして大成功を収められたのは本当にすばらしいと思います!」

Dreams Universe™のユーザーガイドはただいま作成中。これからプレイのヒントに関するコンテンツを増やしていく予定なのでチェックをお忘れなく!