『A Long Climb Ago』ができるまで
文明社会から遠~く離れて暮らしている方でなければ、Media Moleculeの新作ゲームがDreams Universe™で公開されたことをご存じのはず。『A Long Climb Ago』(ALCA)は、Mm オリジナルの最新作です。この騎士道にのっとったクライミングシミュレーターの公開を記念して、作品に命を吹き込んだ開発チームの皆さんに話をうかがいました。
ALCAの開発チームはレベルデザイナーのJoseph Juson、シニアアーティストのDan Goddard、アーティストのSinéad Oram、アニメーターのMike Pang、そしてサウンドデザイナーのLisa Devonで構成されています。「このメンバー、どこかで見たかも?」と思った方もいるかもしれませんね。そうなんです。以前にも配信に参加(新しいタブで開く)し、作品の詳細を紹介していただきました。今回は作品のアイデアがどこから生まれたのか、そして時間をかけてどのように発展していったのかを、さらに深く掘り下げてもらいます。
ベースキャンプ#
作品のコンセプトを最初に思いついたのはJusonでした。「昨年(2022年)の1月初旬… みんながクリスマス休暇から戻り、私がまだDreams Universe™のツールについて学んでいた頃のことです。私たちはアーケードゲームを基にした小規模作品を作り、それがどう発展していくか見守ろうというアイデアを思いついたんです」Jusonはそう語りました。
同僚のPeter FieldがMedia Moleculeのあるグループにアーケード形式のゲームのアイデアを出すように依頼し、Jusonは10種類のコンセプトのプレゼンを行ったそうです。「正直、まったくまとまりのないアイデアばかりでした」と、Juson。「でも、そのうちのひとつが『Block & Roll』というもので、『A Long Climb Ago』はこの作品をベースに発展しました。内容はとてもシンプルで、マリオ的な横スクロールのプラットフォームに、テトリスを組み合わせたものです。その時点ではかなり単純な試作品に過ぎず、キャラクターは『Block & Roll』という作品名にかけて小さなボール状のものでした」
初期の『Block & Roll』はJusonが情熱を注ぐプロジェクトであると同時に、クリエイトツールの可能性を色々と実験していたJusonがDreams Universe™のスキルを磨く手段でもありました。「そもそもツールの使い方を練習する目的で数ヶ月間取り組んでいたんですが、Mmの色んな人から多くのフィードバックがあり、また、デザインに関するやりとりもありました。そこから何かが生まれるとは思いませんでしたが、仕組みとしてはそれなりのポテンシャルがあると思っていました。コンセプトが斬新で、ぱっと理解できるものでしたし」
「Media Moleculeが小規模な作品を制作する段階になった時、ごく基本的なものにしろ、20以上の試作品を作ってきたという経験がかなり役に立ったと思います。いいアイデアであることが既に証明されていたので安心感もありましたし、とても楽しかったです」。その後、Pang、Oram、Goddardがチームに加わり、シンプルな試作品がより大きな作品に発展するまではあっという間でした。しかし、テトリスとマリオを組み合わせるというコンセプトは、一体どこから来たのでしょう?
「単なる個人的なデザイン哲学です」と、Juson。「そもそも異なるコンセプトを組み合わせるのが好きで、コントローラーの両方のスティックを異なる機能で使い分けるのも好きなんです」。Jusonによると、最初期の試作品には時間停止の仕組みはなく、右スティックでキャラクターを操作し、左スティックでブロックを操作していたそうです。「一度に何種類ものアクションをこなすことになったので相当大変でした。やることが多すぎたんです。しかし、最初のコンセプトは完璧ではないものの、ブロックを置いてステージを登っていくというアイデアは、とてもシンプルでありながら惹かれるものがありました。なのでDreams Universe™でコンセプトを練り直し、制作を続けることには意味があったと思います」
クライミング開始#
ゲームの初期コンセプトが固まった後は、作品のスタイル、雰囲気、そしてアプローチを開発するプロセスに入りました。短期間でアートスタイルを確立するうえでチームが直面した課題について、Goddardは次のように語りました。「最初に大まかなストーリーがあったことと、時間がかなり限られていたので、とにかく早く成果を出したかったんです。だから、初期のデザインには明るい色とシンプルな形をたくさん使いました。アートチームとしては、1950年代のディズニーのコンセプトアートはとても気に入っていたましたし、作品にもぴったりだったので、その世界観を利用し、まるでそれに対するラブレターのような作品に仕上げました」
Oramもこれに同意しました。「確かPaco(Rocha)がメアリー・ブレア風のスタイルの提案と、ディズニーのコンセプトアートをモチーフにしてはどうかというアイデアを出してくれたと思います。アーティストのコミュニティにおいてディズニーのコンセプトアートはとても有名です。でも、主流ではないのでゲームにはあまり使われていないんです。変な話ですが、とてもいい提案だと思いました」
この時こそがJusonにとって、作品に命が吹き込まれた瞬間だったそうです。「私のプレイする姿を見ていたPacoが、最初の試作品についてアイデアがあると連絡をくれました。私はその時点で既に3、4ヶ月ほど制作に取り組んでいて、ちょうど新しいアイデアを必要としていました。彼は作品のテーマを提案し、ブロックが落ちてくる様子が落下する城の一部を連想させると言いました。その後にステージ1-1のモックアップ画像を送ってくれたのですが、その画像を見て、このアイデアに対する興奮にもう一度火が付きました。アートスタイルがテーマに沿っていて、とても面白いアプローチだと思ったんです」
Goddardも同様にメアリー・ブレアの代表作のアイデアにすぐに飛びつきました。「当時はPacoとどんな話が進んでいたのかすら知りませんでした。彼がオリジナルコンセプトをもとに作った画像を見たのと、メアリー・ブレアはとても大きな存在だったので、見た瞬間にみんなが“これだ”と思ったんだと思います。カラーや2Dスタイルで自分たちなりに手を加え、Mikeが入ったことでアニメーション効果でさらに強化され、すべてが完璧にまとまりました」
Pangはアニメーションの黄金時代の技法を探求するチャンスに飛びついたそうです。「私はもともとキャラクターデザインを担当していたのですが、メアリー・ブレアやアイヴァンド・アールの描くシャープなシルエットに及ばないことが何度かありました。それがこのスタイルを見直すきっかけとなり、エフェクトアニメーションを『王様の剣』時代にインスパイアされたものにするというアイデアが生まれました」。結果として、チームはすべてのエフェクトを2Dアニメ化することにしました。「とてもつらい作業でした」とPangは笑って言いました。「でも、最終的には本当にユニークな仕上がりになりました。3Dのキャラクターと2Dのアートの融合は厄介でした。プラットフォーマー形式のゲームということで精密さが求められるので、キャラクターは1秒間に30フレームで動作させる必要があるのに対し、2Dエフェクトは2秒で動作させる必要があったんです。しかも、1秒のアニメーションのために12枚の新しい絵やフレームがありますし」
それぞれ異なるスタイルを持つ2人のアーティストが同じプロジェクトに参加するのは大変なことだと思われるかもしれませんが、OramにとってGoddardとの共同作業は比較的スムーズなものだったようです。「お互いに上手く協力できたと思います。2人ともあのスタイルのファンなので、ビジョンをすぐに思い浮かべることができました。私もDanも普段はもう少しダークでゴシック調なアートを得意とするので、なかなか面白い試みでした。でも、2人ともすぐにこのアートスタイルで行こうと決断しました。いい挑戦だったと思います」
作品の制作#
開発チームにとって『A Long Climb Ago』のもっとも重要な点の1つは、LGBT+のキャラクターを前面に押し出した物語を伝えることでした。「みんなでストーリーのアイデアを出し合い、同性愛者の騎士の物語にしたら面白いのではないかと話し合いました」と、Jusonが語ってくれました。城にいる2人の恋人がお互いの元へ戻る道を作ろうとするというアイデアは、チームに大きなインスピレーションを与えました。
「私たちにはDreams Universe™というプラットフォームがあるので、予算規模の大きなAAA作品が発表される場では取り上げられることの少ない物語を掘り下げることができます」とJusonは続けました。「しかし、それをストーリーの核にするつもりはなく、メディア全般におけるゲイやレズビアンのラブストーリーの、型にはまった表現は避けたいと思いました。私たちはチーム内で話し合いを重ね、一人ひとりが本当に大切にしている重要な特徴を取り入れることにしました。そして、その柱のひとつが、レズビアンのラブストーリーだったのです」
Oramにとっては古典的なロマンスの物語に新しい風を吹き込む機会でもありました。「アーサー王の神話やその手のファンタジーに通じるものがあるのがいいなと思っていました。優雅なラブストーリーに思えて、そこに魅力を感じたのです。ファンタジーというジャンルは巨大で、『ロード・オブ・ザ・リング』的なファンタジーも『D&D』や『World of Warcraft』的なファンタジーも探求しつくされてきたように感じます。今回の作品はアーサー王伝説の洗練された愛をベースにした新しいファンタジーの形だったので、いい試みだと思いました。だからこそ、2人の女性が恋に落ちるという物語に納得できたのです」
もうひとつゲームの肉付けに役立ったのは、特徴的な音楽スタイルでした。「初めてこの作品の曲を聴いた時のことを覚えています」とJusonが言いました。「Lisaが作ったある曲が、典型的な中世風の曲だったんです。皆それをとても気に入りました。しかし、彼女は一転して『やっぱりめちゃくちゃワイルドな感じにするね』と言ったんです。その後できたものは確かにワイルドでしたが、すごくしっくりきました」
Goddardもまた、音楽を不思議な新境地に到達させたいと熱く語るDevonのことを振り返りました。「ある時、彼女はもっと変な曲を作ってみたいと言ったんです。私たちはプロジェクトを進めるうちに、色んな要素を誇張すればするほど面白い作品になるだろうと思うようになりました。だから、好きなようにすればいいよって思いました」
Oramも音楽のおかげでゲームがよりユニークなものに仕上がったと同意しました。「音楽のおかげで作品を現代的に感じさせることができたと思います。中世がテーマであると同時に50年代もテーマになっている。中世のファンタジー音楽や色彩を極端に強調したことで、新鮮さとクールさを押し出すことができました」
Devon自身はこう語りました。「ゲームのサウンドトラックに対する私のビジョンは制作の過程で何度か変化しました。当初は、アナログ楽器と古典的なハーモニーにこだわって、典型的な中世風の音楽を目指していました」。しかし、それでは鮮やかなアートスタイルと現代的なラブストーリーを十分に表現できないことに気づいたそうです。「Josephは歌とギターの才能にあふれた人です」と、Devonは言いました。「いつもJosephの作品からインスピレーションを得ているので、サウンドトラックの構成要素として音楽をサンプリングさせてもらえないかとお願いしました。この判断が大きな起点となり、アコースティックとエレクトロニクスの要素を組み合わせてより実験的なスタイルにしようと思い起こさせてくれました」。また、Devonと開発チームは声を音楽の核とし、細かくサンプリングして楽器のように使うことにしました。
サウンドトラックがゲームの絵柄にマッチすることは、どれほど重要だったのかが気になるところです。「少なくとも意識してゲームのスタイルに音楽を合わせようと思ったことはないと思います」Devonはこう説明してくれました。「私はアクションに必要な要素と、プレイヤーの体験を邪魔することなく向上させるものを理解するように努めています。そうすることで、こちらの予想(この場合は中世風のストレートなサウンドトラック)と現実との間に、驚くべきミスマッチを生み出せるのがとても楽しいんです。ゲーム音楽は私たちが日々聞いている音楽と同じくらい豊かでユニークであってほしいと思っているので、ゲーム作曲家が常に限界を超えていこうという姿勢を持っていると、とても嬉しくなります」
頂上にたどり着く#
開発のゴールが近づき、チームはようやく自分たちが作ったゲームを振り返ることができるようになりました。このとき、Jusonはみんながまだこの作品を好きなことをただただ喜んだそうです。「公開までたどり着いたこと、そして今でも楽しいと思えることが嬉しくて。プレイするのも、プレイしている人を見るのもとても楽しいです。誰かがプレイしているのを見るたびに、自分が予想もしなかった、あるいは初めて目にする方法でプレイしているような気がします。その独創的かつ工夫を凝らしたゲームプレイを可能にしているのが、ステージだと思います。また、制作中、小さなチームで何かを作る機会というのは、滅多にないものだと感じていました。Mmが多くの自主性とクリエイティビティを私たちに与えて好きに作らせてくれたのはすごいことです。皆と一緒に楽しく仕事をできたのもそのおかげだと思います。こういう機会を与えられて本当に幸運だと誰もが感じていましたから」
「私にとって、この作品はただのプロジェクト以上の存在です」Goddardはこう述べました。「これまで、こんな風に皆と密接に仕事をしたことはありませんでした。このプロジェクトに参加することになり、そこから生まれたアイデアに対して、全員が情熱を持って取り組みました。ディズニーの古典的なアートなどを深く尊重したものではありますが、チームとしてまとまり、プロジェクトを通して自分たちが作ったものに情熱を注げたという点が、チームとしての力を証明していると思います。短期間ではありましたが、本当にユニークなものを作ることができた情熱的なプロジェクトでした。プレイ中もそのことを感じられると思います」
Oramはこのゲームのために制作したアートワークにとてつもない誇りを感じていました。「目の錯覚に近いと思うことがあるんです。はたから見るとものすごく奥が深そうだと言われますが、実際は大半がただの3D。まるで魔法のように思えるかもしれませんが、ただブロックを積み上げて、その上に絵を描いているだけなんです。例となるデザインをしっかり決めて、他のアートがどのようなものになるべきかの基準を作りたかったんです」
「複数のプログラムを使わなくてもああいう画像が作れるのはDreams Universe™だけだという気がします」Oramはこう続けました。「物にすぐ色を塗れるというのは、Dreams Universe™にしかない特徴です。一枚の絵の中にDreams Universe™が凝縮されているようなものですね」。PangもOramに同意しました。「ええ、アートスタイルと実際のゲームの仕組みの組み合わせがとても新鮮だと思います」
ゲームの制作は、まるで高い塔を登るようなもの。だけど、皆と協力することで頂上にたどり着くことができます。『A Long Climb Ago』はDreams Universe™で公開中です。まだプレイしていない方は、ぜひ以下をご確認ください。
(Dreams Universe™本体が必要です)
Dreams Universe™のユーザーガイドはただいま作成中。これからプレイのヒントに関するコンテンツを増やしていく予定なのでチェックをお忘れなく!